大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和63年(行ウ)175号 判決 1993年1月26日

千葉県市川市二三一八番地二

原告

有限会社 中村自動車販売

右代表者代表取締役

中村孝夫

右訴訟代理人弁護士

宮崎章

宮崎治子

千葉県市川市北方一丁目一一番一〇号

江戸川税務署長事務継承人

被告

市川税務署長 國安如水

指定代理人

小磯武男

時田敏彦

木村武義

安井和彦

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求の趣旨

原告の昭和六〇年八月一日から昭和六一年七月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、江戸川税務署長が昭和六一年一二月二六日付けでした更正(以下「本件更正」という。)のうち所得金額五一五万〇二三〇円、納付すべき税額九八万九六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件決定」という。)を取り消す。

第二事案の概要

一  当事者間に争いのない事実等

1  本件課税処分の経緯

(一) 原告は、中古自動車の販売を業とする会社である。

(二) 本件事業年度の法人税についての課税の経緯は別紙1の「本件課税処分の経緯」のとおりである。すなわち、原告は、江戸川税務署長(以下「本件署長」という。)に対し、本件事業年度の法人税について、所得金額を五一五万〇二三〇円、納付すべき税額を九八万九六〇〇円とする申告を行ったが、これに対し、同署長は、昭和六一年一二月二六日付けで、所得金額を五三三五万八三七六円、納付すべき税額を二二三一万一五〇〇円とする本件更正及び過少申告加算税額を二〇五万二〇〇〇円とする本件決定を行った。

2  原告の申告と本件更正の各根拠等

(一) 本件事業年度の原告の所得の計算において、前記の原告の申告に係る所得金額である五一五万〇二三〇円に、更に否認されるべき減価償却費として二万九一六六円が加算されるべきである(この合計額は五一七万九三九六円となる。)ことについては、当事者間に争いがない。

(二)(1) 法人税法(以下「法」という。)二九条の規定によれば、法人のたな卸資産について法二二条三項の規定により損金に参入すべき金額の算定の基礎となる当該事業年度終了時のたな卸資産の価額は、その法人が選定した評価の方法によって評価した金額によるものとされ、この選定した評価の方法によって評価しなかった場合には、評価の方法のうち政令で定める方法により評価した金額によるものと定められている。この規定を受けて、「法人税法施行令(以下「令」という。)三一条一項は、右の政令で定める方法を最終仕入原価法(期末たな卸資産をその種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、当該事業年度終了の時から最も近い時において取得したものの一単位当たりの取得価額をその一単位当たりの取得価額とする方法、令二八条一項一号ト)により算出した取得価額による原価法とするものと定めるとともに、同条二項が、右の法人が選定した評価の方法によって評価しなかった場合においても、税務署長は、その法人が行った評価の方法が令二八条一項に規定する評価の方法(個別法、先入先出法等の方法により算出した取得価額による原価法あるいは右原価法により評価した価額と当該事業年度終了の時におけるその取得のために通常要する価額とのうちいずれか低い価額をもってその評価額とする低価法)のいずれかの方法に該当し、かつ、その行った評価の方法によってもその法人の各事業年度の所得の金額の計算を適正に行うことができると認めるときは、その行った評価の方法によって計算した各事業年度の所得の金額を基礎として更正又は決定を行うことができるものと定めている。

(2) 原告は、昭和四九年一二月二五日付けで、右のたな卸資産の評価方法として最終仕入原価法を選定した旨を届け出ていた。

ところが、原告は、前記の申告において、本件事業年度の期末たな卸資産のうち当該年度中の仕入れに係る別表2-1ないし2-9(以下、一括して「別紙2各表」ともいう。)掲記の中古車両のうち、No.29とNo.30を除く中古車両二〇二台(以下「本件たな卸資産」という。また、中古車両の特定については別紙2各表のNo.欄記載の番号による。)について、届け出ていた最終仕入原価法の方法によらないで、その期末の評価額を別紙2-9の「原告の期末棚卸評価額」の「合計」欄記載のとおり合計三九二九万九一八六円と評価していた。

これに対し、被告は、本件たな卸資産を最終仕入原価法によって評価し、その評価額が別紙2-9掲記の「取得価額」の「合計」欄記載とのおり合計額八七六一万一〇五六円となり、この金額と右「原告の期末棚卸評価額」の合計三九二九万九一八六円との差額である別紙2-9掲載の「本件評価差額」の「合計」欄記載の四八三一万一八七〇円だけ申告の売上原価が減少し、営業利益が増加するものであるとしている。

(三) すなわち、被告は、原告の本件事業年度の所得金額が、前記(一)の五一七万九三九六円に更に本件たな卸資産の右の原告による評価額と被告による評価額との差額である四八三一万一八七〇円を加算した五三四九万一二六六円となるものとし、本件更正における所得金額を上回るから、本件署長のした本件更正及び本件決定は適法であるとしている。

二  本件の争点

本件の争点は、本件たな卸資産の期末の評価額の評価の適否の点にあり、この点について、当事者双方は、要旨次のように主張している。

1  被告の主張

(一) 前記のとおり、原告は本件たな卸資産についてその選定した評価の方法による評価をしなかったのであるから、法二九条一項及び令三一条一項の規定により、最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法によってこれを評価すべきこととなる。

右の方法による本件たな卸資産の期末の評価額は、別紙2各表の「取得価額」の「合計額」欄記載のとおり、合計八七六一万一〇五六円となり、原告の事業所得金額は右のとおり本件更正の所得金額を上回ることとなるから、本件更正及び本件決定は適法なものである。

(二) 原告の主張する本件たな卸資産の評価額は、次のとおり、低価法による評価をする際に必要な「当該事業年度終了の時におけるその取得のために通常要する価額」(期末時価)を適正に算出したものとは認められない。

すなわち、本件たな卸資産については、その取得後本件事業年度末までの間にその価額が下落する要因となる事実が認められず、現に、別紙2各表の「販売価額」欄記載のとおり、本件たな卸資産のうち昭和六一年八月以降に販売された六三台中の五二台はその取得価額より高い価額で他に販売されており、その余の一一台はその取得価額より低い価額で販売されているもののその差はわずかである。ところが、原告の行った評価によれば、別紙2各表記載のとおり、本件たな卸資産である中古車両の期末の評価額がその取得価額に比べて一台平均で約四五パーセントの額にまで大幅に減少していることになる。このことからして、原告の右評価が、本件たな卸資産の期末の評価を適正に評価したものでないことは明らかである。

(三) そもそも、令三一条二項の規定は、同条一項の法定評価方法の定めに対する特例を認めた規定であるから、右特例規定の適用を受けるためには、右規定で定められている<1>原告の行った評価の方法が税法上定められている評価の方法のうちいずれかの方法に該当すること及び<2>その評価方法によっても所得金額の計算を適正に行うことができると認められることの二要件をいずれも充足していることを、原告において主張、立証すべきである。しかし、前記のところからすれば、これらの要件が充足されているものとは到底いえなしことは明らかである。

2  原告の主張

(一) 原告は、令二八条一項一号イの個別法(期末たな卸資産の全部について、その個々の取得価額をその取得価額とする方法)により算出した取得価額による原価法により評価した価額と事業年度終了時におけるその取得のために通常要する価額とのいずれか低い価額をもってその評価額とする低価法(同項二号)によって、本件たな卸資産の評価を行った。すなわち、原告は、中古自動車を仕入れる都度、その年式、グレード、装備内容、仕入価額、業販価額等の二一の項目及びその車の特徴を記載したチェックリストを作成し、その後車に何らかの変化か存したときにその内容を右リストを記入しておき、更に期末には、右リストの記載を基に各車を点検し、財団法人日本自動車査定協会の定めた加減点法に基づいて、その価額を査定するという方法をとっている。このような方法による期末の査定額を右の規定による「事業年度最了時におけるその取得のために通常要する価額」とし、これと取得価額とを比較し、低い方の価額で評価するという低価法を適用して、本件たな卸資産の評価を行っているのである。

右の方法による本件たな卸資産の期末の評価額は、別紙2各表の「原告の期末棚卸評価額」欄に記載のとおり(ただし、No.145は二一万三三四〇円、No.148は一七万六六八〇円)である。

(二) 原告は、昭和四九年一一月の会社設立以来一貫して、中古自動車業界の一般的なたな卸資産の評価方法である右のような評価方法によってたな卸資産の評価を行ってきており、その間三度にわたって税務調査を受けているが、この評価方法について特段の指摘を受けたことはない。

そもそも原告代表者らは、原告のたな卸資産の評価方法として最終仕入原価法を選定した旨を届け出ていることを知らなかったのである。

(三) 中古車の場合は、その陳腐化のため、その市場価格は日々下落していくのが通例である。また、原告は、中古車の仕入をすべて電話注文で行っており、その際現場を直接認識しておらず、車両の状況を正確に把握していないため、一台ごとに車両の現状等を確認した上で行う期末の評価額の方がその取得価額より低額となるのが一般である。

さらに、これらの中古車の仕入価額より現実の販売価額が高くなっているのは、その間に原告の側で補修、加工、再調整等を行っていることによるものであり、当然のことである。

(四) 法人の各期の原価計算及び期間損益の計算が適正に行われるためには、各期とも継続して同一の方法によるたな卸資産の評価が行われることが必要であり、それが、公正妥当な会計処理基準の要求するところでもある。

ところが、本件において、被告は、これまで原告が継続して採用してきた前記のような評価方法が、原告が選定して届け出た評価方法と異なるとの理由で、一事業年度のみを取り出し、しかも、その年度に仕入れの行われた車両の期末の評価額についてのみ他の時点における評価方法と切り離してその評価方法を変更し、最終仕入原価によるより大きな額とすべきものであり、このような方法によると、実質の利益のないところに架空の利益を創造する結果となることが明らかである。

したがって、このような方法によって本件署長のした本件更正及び本件決定は、権利の濫用に当たり、あるいは信義則に反するものとして、違法なものというべきである。

第三争点に対する判断

一  本件では、前記のとおり、本件たな卸資産の評価方法として、被告の主張する最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法と原告が低価法の一つとして主張する方法のいずれによるべきかが争われている。

ところで、前記のとおり、法二九条等の規定は、期末のたな卸資産の価額を法人があらかじめ選定した評価の方法によって評価しなかった場合には、最終仕入原価法によって算出した取得価額による原価法(すなわち、本件で本件署長が採用した評価方法)によってこれを評価べきことを原則として定め、ただ、その法人が現実に行った評価の方法が、法定の評価方法のいずれかに該当し、しかも、その評価方法によっても所得の金額の計算を適正に行うことができると認められるときに限って、税務署長がその評価方法によって計算した所得の金額を基礎として更正等の課税処分を行うことができるとの特例を定めているところである。

右の規定の定め方からすれば、本件のように原告があらかじめ選定した評価の方法によって期末たな卸資産の評価を行わなかった場合に、本件署長が右の原則規定に従った原価法によって計算した所得金額を基礎として更正を行ったことには、何ら法の規定に違反するところはないものというべきである。もっとも、前記のような特例規定が置かれていることからすれば、本件で原告が現実に用いた原告にとってより有利な評価方法である低価法の一つとして原告が主張する方法が、法定の評価方法のいずれかに該当し、しかもその評価方法によっても所得の金額の計算を適正に行うことができると認められるとの要件が備わっている場合には、本件署長としてはその評価方法を用いて課税処分を行うことも可能であったということになる。しかし、本件署長がこのような処分を行うか否かは、その裁量に委ねられていると考えられ、本件署長が右の原告が現実に用いた原告にとってより有利な評価方法によって課税処分を行わなかったことが、そもそも違法とされる余地があるものと解すべきか否かは一つの問題であるが、少なくとも原告が用いた原告にとってより有利な評価方法によって課税処分を行わなかったことが違法であるというためには、その評価方法が前記のような要件を充たしていることが前提となり、かつ、原告がこのことを主張、立証すべき責任を負うものと解するのが相当である。

この点について、原告は、課税処分取消訴訟においては必要経費あるいは損金の内容についても被告たる課税庁が立証責任を負うべきことを理由に、本件においては、原告の用いた評価方法を容認すべきであると主張する。しかし、前記のような法の原則規定と特例規定の定め方からすれば、法が特例規定適用のための要件として定めている要件を充たしているか否かについて疑問の余地がある場合においてもなお右の特例規定を適用すべきものとすることは相当でないものというべきであるから、右の原告の主張がそのような趣旨のものであるとすれば、その主張は採用できない。

二  そこで、本件たな卸資産の評価について、原告の主張するような方法によっても、原告の本件事業年度の所得の金額の計算を適正に行うことができると認められるか否かを検討する。

1  証人飛田菊男の証言及び原告代表者中村孝夫の供述並びに車歴明細書(甲一七号証の一ないし二〇四)によれば、原告の主張する本件たな卸資産の評価方法は、次のようなものであったというのである。

すなわち、原告は、中古自動車を江戸川中古自動車販売協同組合(以下「江戸川組合」という。)主催のオークションを通じて、あるいは大手ディーラー、同業者等から仕入れるたびに、一台ごとにその仕入月日、仕入先、車名、年式、型式、グレード、車検、装備、仕入価額、業販価格、小売価額、外装、内装等の車両の内容や特徴に関する項目を記載する箇所のあるチェックリストにそれぞれの内容を記載し、その後車両に何らかの変化があったときにもその新たに判明した事項の内容を右リストに記載している。さらに、原告は、期末には、右リストを基に各車両を点検し、その内装、外装、エンジン、ミッション、タイヤ等の状況に応じて、財団法人日本自動車査定協会の定める加減点法によった査定を行い、期末の価額を記入するという方法を採用している。車歴明細書(甲第一七号証の一ないし二〇四)が、そのようにして作成された書面である。原告の本件たな卸資産の評価は、このような取得価額による原価法によって評価した価額と期末の現実の評価額(取得のために通常要する価額)を比較して、いずれか低い方の価額によってその評価を行うという低価法の方法によっているものであり、その具体的な評価額の内容は、別紙2各表の「原告の期末棚卸評価額」欄のとおり(ただし、No.145は二一万三三四〇円、No.148は一七万六六八〇円)となる。

なお、このような評価方法は中古自動車販売業界におけるたな卸資産の一般的な評価方法であり、また、原告は、中古車をすべて電話注文の方法によって仕入れており、現物を直接確認していないため、正確な車の状態を把握しておらず、さらに、原告の扱う中古車は、陳腐化が激しく日を追ってその商品価値が低下するのが通例である上、たなざらしになっていること等による影響もあって、期末の評価額の方が仕入価額より低くなる例が多かったというのである。

2  しかしながら、右の原告の主張する評価方法による評価については、次のとおり、本件たな卸資産の期末における客観的な評価額を適正に算定したものといえるかについて、多くの疑問が存在するものといわざるを得ない。

(一) 原告の評価によれば、本件たな卸資産である中古車二〇二台については、別紙2各表記載から明らかなように、その仕入価額に修理等に要した加修価額を加えた取得価額に対比して、若干の例外を除く大部分の車両の期末の各評価額が大幅に減価されており、右取得価額の合計額八七六一万一〇五六円(この各価額については、当事者間に争いがない。)に対し、その期末の評価額の合計額が三九二四万二五二六円にすぎないものとなっており、実に金額にして合計四八三六万八五三〇円、率にして取得価額の約五五パーセントもの評価減額を生じている。すなわち、原告の評価が適正なものであるということを前提にすると、原告は、これらの中古車の仕入れに際し、その客観的な市場価格に比して約二倍もの高額の代金を支払い、それに相応する損失を被っているということになる訳である、これは、中古車販売業者として長年の経験を持ち、その取得車両台数も多数に及んでいる原告の商取引のあり方としては、はなはだしく非常識な事態といわなければならない。

さらに、本件たな卸資産の昭和六一年八月一日以後の原告による現実の販売代金の状況(この販売金額(別紙2各表記載のとおり)については当事者間に争いがない。)は、中古車六三台のうち五二台については、右の取得価額により高い価額で販売されており、その余りは一一台についても、その販売価額が取得価額を下回ってはいるものの、その程度は率にして約一〇パーセント程度のものが多く、その差額はわずかであり、当然のことながら、その販売価額は一件の例外を除いて原告の右の期末の評価額を大幅に上回っているのである。これらの点からしても、右の原告の評価の相当性については、大きな疑問があるものといわざるを得ない。

ところで、この点について、原告は、原告が車両の現物を直接確認せずに電話で仕入れをしていることや、中古車は性質上商品としての陳腐化が激しいこと等のために、期末の評価額の方が取得価額より低くなる例が多くなっているものであると主張している。しかし、仮に原告の主張するようなケースがあり得るものとしても、右のように本件事業年度中の仕入れに係る二〇二台もの本件たな卸資産である中古車のほぼすべてについて、平均するとその取得価額の約五五パーセントにも達するような大幅な減価を生じているという現象は、右のような事情だけでは到底説明がつくものでないことは明らかである。すなわち、原告の主張するような事実だけでは、原告のした評価の相当性に対する前記のような疑問を解消するには到底足りないものといわざるを得ないのである。

(二) また、前記認定のとおり、原告は、原告において作成した車歴明細書に基づいて期末の評価を行っているが、その評価の具体的な方法について、原告代表者中村は、原告の担当者が、財団法人日本自動車査定協会の作成した中古自動車査定基準(甲一八号証)や自動車メーカー等が使用している評価表(甲二八号証)の基準に基づき、対象車両の状況について、数段階の評価をし、車歴証明書には右評価点と評価額とを記入し、原告代表者が最終的なチェックをして評価額を確定する方法をとっており、右評価額は、仕入れからの経過日数、外装の程度、使わないための機械的な故障、時期的な相場を勘案して決定していると供述している。しかし、右の供述によっても、右の評価点の付与方法は、例えば、右の中古車査定基準が定めるような一応の客観性と普遍性とを備えていると認められる評価項目、評価基準、算定方式等に準拠して行われているとは認められず、むしろ担当者が対象車両の状態についてその経験と勘に従って全体的な印象に基づいて数段階の大まかな評価点を付与するものにすぎないとうかがわれる上、評価額の算定についても、右の評価点を基礎として、いかなる客観性と普遍性とを備えた算出過程を経て算定されるものかは明らかではなく、結局のところ右の評価点と同様に担当者の経験と勘に従って決定されているにすぎないことがうかがわれる。このようなことからすれば、右の評価方法がたな卸資産の期末における評価額を適正に算定する方法であるとは到底認め難いものといわざるを得ない。

3  以上のところからすると、本件たな卸資産の期末の評価方法として原告の主張する方法については、法が前記特例規定の適用の要件として定めている「その評価方法によっても所得の金額の計算を適正に行うことができると認められること」との要件を充たしているということは到底困難なものといわざるを得ず、したがって、このような方法によって本件たな卸資産の期末の評価を行うことはできないこととなる。

三  そうすると、本件たな卸資産の期末の評価については、法の定める本則に従い、最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法の方法によって、これを行うほかないこととなる。

この点については、原告は、これまで原告が継続し採用してきた原告主張の評価方法と異なる右原価法の方法を一事業年度のしかもその年度に仕入れの行われた車両の期末の評価についてのみ採用することは、架空の利益を創造する結果となり、継続性の原則を要求する公正妥当な会計処理基準にも反するものであって、このような方法による課税処分は、権利の濫用に当たり、あるいは信義則に反するものとして、許されないものであると主張する。

しかし、本件において、本件事業年度内に新たに取得された商品である本件たな卸資産についてのみ、右の原価法による方法によってその期末の評価を行うこととするものであって、その他の期末たな卸資産や期首のたな卸資産の評価については何らかの変更を加えようとするものではない(原告の主張を前提にすると、其の他の期末たな卸資産等についても右の原価法の方法によって評価しなければならないこととなる。)から、これによって現実に所得のないところに架空の利益を生み出すことになるという原告の右の主張は、当を得ないものといわなければならない。しかも、原告は、本件事業年度分以前の申告において、原告が低価法の一つとして主張する評価方法によって、法人税法上本来許されるべきではない売上原価を損金に計上し、その結果、右の不適正な損金分に相当する税額の支払を免れていたものであること、また、本件事業年度において、被告の主張する原価法によって当期の期末たな卸資産の評価が是正された場合には、翌期の所得の計算に当たっても、当然にこの是正された評価額を前提とした計算が行われるべきであるから、これによって原告に格別の不利益が生ずることとなるものではないことからかんがみれば、被告の主張する評価方法に基づいてした本件更正等が権利の濫用や信義則に反するものに当たらないことは明らかである。したがって、原告の前記主張は、採用できないというべきである。

四  ところで、本件たな卸資産を構成する中古車は、車種、型式、年式等が区々であって、また、車種等の同じものであってもその損傷の程度や性能等がそれぞれ異なっているのが通例であるから、右の最終仕入原価法によってその取得価額を算定するに際しては、各車両ごとにそのそれぞれの取得価額をもってこれを評価する方法が相当なものと考えられる。そして、これらの各車両の仕入価額及び加修価額が別紙2各表の「取得価額」欄記載のとおりであることについては当事者間に争いがないから、その取得価額は別紙2-9の「取得価額」の「合計」欄の金額八七六一万二〇五六円となり、この金額をもってその最終仕入原価とすべきこととなる。

したがって、本件たな卸資産の期末の価額は右のとおり合計八七六一万一〇五六円となり、この評価額を基礎として計算した原告の本件事業年度の所得金額は、被告主張のとおり五三四九万一二六六円となり、本件更正における事業所得金額五三三五万八三七六円を上回るから、本件更正及び本件決定はいずれも適法なものというべきこととなる。

(裁判長裁判官 秋山壽延 裁判官 小池裕 裁判官 近田正晴)

別紙1 本件課税処分の経緯

本件事業年度

<省略>

別表 2-1

<省略>

別表 2-2

<省略>

別表 2-3

<省略>

別表 2-4

<省略>

別表 2-5

<省略>

別表 2-6

<省略>

別表 2-7

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例